イタリア北部ミラノ(Milano)&ヴェネチア(Venezia)とスイス南部ルガーノ(Lugano)での庭園緑地と修繕工事の視察見学

<strong>イタリア北部ミラノ(Milano)&ヴェネチア(Venezia)とスイス南部ルガーノ(Lugano)での庭園緑地と修繕工事の視察見学</strong>

ローマ中心部から鉄道を乗り継ぎイタリア北部ミラノからスイス南部ルガーノ、古都ヴェネチアの造園や庭園、植栽メンテナンス、加工石やレンガ施工、植栽ガーデニングの視察見学の為に行ってきました。

 

イタリア・ミラノ周辺の革新的な集合住宅の植栽とレオナルド・ダ・ヴィンチの庭

垂直の森(Bosco Verticale)

800本の樹木、4500本の低木、15000本の草花を緑化された高層住宅ビル群で「建築と自然の融合」をコンセプトとしたミラノ出身の建築家ステファノ・ボエリ(Stefano Boeri)氏設計の着工から11年経過し、樹木や植栽の生育や状態を見学したいと思い行ってみた所、太陽の光を浴びて新緑の芽生える樹木や草花が時間帯により表情を変え、美しい植栽維持管理がされていて感動しました。1本、1本の樹木の魅力が最大限に引き出されています。植栽の美しさやスケール感は写真では伝わらない部分もありますが機会があれば現地で見るのが最も良いです。植物の美しさは視覚だけではないということです。呼吸をする植物は日々変化し、季節の表情を見せてくれます。大都市のヒートアイランド現象の緩和や空気中の微粒子をフィルタリング、自然との共生を考え、建物内の住民が植物と共に暮らすことで、精神的な健康効果も持ち合わせています。そして生物の多様性を考え、鳥や昆虫などの生息地としての機能や夏は強い日差しを遮り、冬は風よけに。冷暖房の負担を軽減するサスティナブルな高層住宅ビルです。

植栽のメンテナンスが行き届いているイタリア・ミラノの垂直の森
植栽のメンテナンスが行き届いているイタリア・ミラノの垂直の森

垂直の森に隣接しているミラノの樹木図書館(BAM – Biblioteca degli Alberi Milano)はミラノのポルタ・ヌオーヴァ地区に位置する現代的なボタニカルガーデンです。​10ヘクタールの広さを持ち、100種以上の植物、500本以上の樹木が22の円形の森を形成し、さらに13万5000本の植物が植えられています。この公園は、オランダのInside Outside|Petra Blaisseスタジオによって設計され、都市の連結性、文化的キャンパス、スポーツグラウンド、ボタニカルガーデンとしての役割を果たしています。公園内の小道は、周囲の住宅地、商業地域、政府機関などから引かれ、歩行者やサイクリストが多様なエリアや周辺のポイントへアクセスできるよう設計されています。公園計画や工事は現在進行中です。

BAMは、自然と文化が融合する空間として、多彩なイベントやアクティビティを提供しています。​また、詩的なフレーズが小道に刻まれており、訪れる人々に自然と詩の融合を楽しませています。

BAM公園工事の様子
イタリア・ミラノBAM再開発

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の庭(Basilica di Santa Maria delle Grazie)と画家レオナルド・ダ・ヴィンチの葡萄畑の庭(Leonardo da Vinci\’s Vineyard)

600年の歳月をかけて作り上げた大理石の巨大彫刻建造物ドゥオーモ大聖堂(Duomo di Santa Maria Nascente)とヴィット―リオエマヌエーレ2世のガレリア建築の先に画家レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な壁画[最後の晩餐](L\’Ultima Cena)があるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の中庭の庭園周囲には回廊が巡らされており、静かで落ち着いた雰囲気があります。植栽は、歴史的な修道院の庭園として、修道士たちが瞑想や祈りのために利用したと言われるシンプルで落ち着いた植物が常日頃からとても丁寧に手入れがされています。​​

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会と道路を挟んだ向かい側には画家レオナルド・ダ・ヴィンチが過ごした葡萄畑のある庭(Leonardo da Vinci\’s Vineyard)があります。この葡萄畑は、レオナルドが作品制作の合間に過ごした場所であり、彼にとって重要な場所でした。近年になり、この葡萄畑が修復され一般公開されるようになりました。修復された庭園では、当時の栽培方法に沿って葡萄が栽培されており、レオナルドが生きた時代の雰囲気が体験出来ます。葡萄畑以外にも、当時のミラノの庭園を模した植栽がされており、レオナルドが生きた時代の植物を知ることができます。庭園は、レオナルドの生活や作品に影響を与えた自然環境を垣間見ることができる貴重な庭です。

サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の庭
サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の中庭

スイス・ルガーノの地形や気候を生かした公園・庭園の植栽と植木の販売

イタリアの国境を越えスイスに入国するとイタリアとはまた異なる、美しい山々に囲まれたルガーノは、3月とはいえ、まだ少し肌寒い気候でした。イタリア北部とスイス南部は隣接していますが、標高や地形の影響で、気温や気候に違いが見られました。ルガーノは、イタリアよりも気温が低く、自然環境に恵まれている事もあり、空気も澄んでいました。遠くに見える美しい山々が連なる風景と公園が一体化してまさに絶景です。​

​​チャーニ公園とジュスティ庭園は、ルガーノ湖畔に広がる美しい公園と庭園です。3月は、まだ花が咲き始めたばかりでしたが、それでも園内は緑豊かで、森林浴と湖の水流のリラックスを感じられる心地よい空間です。​

傾斜地を生かした植栽:

スイスでは傾斜地が多く、ルガーノのチャーニ公園もその地形を生かした造りになっています。周辺の傾斜面には、様々な種類の美しい樹木や低木が植えられており、自然な景観を作り出していました。特に印象的だったのは、岩場に力強く根を張る針葉樹の姿です。

水辺を生かしたガーデニング:

​​チャーニ公園はルガーノ湖畔にあるため、水辺を生かしたガーデニングが施されています。湖畔には、環境に適した水辺を好む植物が植えられています。水面に映る周囲の山々の風景も美しく、心が洗われるようでした。​

定期的な植栽の手入れが行き届いた公園と庭園:

チャーニ公園とジュスティ庭園は、非常によく植木の手入れがされており、どこを見ても美しい状態でした。樹木の剪定や草花の管理が行き届いており、公園全体が清潔に保たれていました。スイスの人々の自然に対する敬意と、公園と庭園を大切に維持する気持ちがよく伝わってきました。今回の訪問で現地の植栽から学ぶことは、傾斜地や水辺、遠くの山々の風景を生かした植栽などを学ぶことができました。​

スイス・ルガーノの街角に息づく緑 〜洗練された植木販売店から見えるガーデニング文化:

ルガーノは、美しい湖と山々に囲まれたエレガントな街。その街角でふと足を止めたくなるような、洗練された植木販売店に出会いました。まるでブティックのように整然と並べられた植物たちは、単なる「商品」ではなく、暮らしの質を高める「存在」として大切に扱われていることが感じられます。スイスでは、「庭=ステータス」というよりも「庭=心地よい暮らしの延長」という考え方が根付いています。ルガーノのような都市部でも、マンションのバルコニーや小さな中庭に植物を取り入れることで、自然と触れ合う機会を生活に取り入れるのが一般的です。日本でも近年、外構よりも「庭のある暮らし」を重視するお客様が増えていますが、欧州ではさらに一歩進んで「自然の演出」が洗練されたライフスタイルとして定着している印象を受けました。​

スイス・ルガーノの傾斜地をりようした庭園
スイス・ルガーノの自然と調和した街並み

イタリア・ヴェネチアの古い街並み風景と植栽

ヴェネチアは“水の都”として世界的に知られる5~6世紀からの歴史都市ですが、都市構造の特性上、自然や樹木の多い都市ではありません。けれども、その限られたスペースの中でも、人々は工夫を凝らして憩いの庭やガーデニングを楽しんでおり、小さな中庭やテラスなどに癒しの空間として植物の彩りを添える姿が見られます。​

私たち造園業・植木屋の視点から見て特に興味深かったのは、「レンガ」や「石材」の使い方でした。ヴェネチアでは、歴史的な建築物や舗装が何百年も前のものでも、きちんと補修・修復されながら現役で使われており、そこには“長く持たせる”という価値観が根付いています。例えば、サン・マルコ広場の敷石修繕工事を見学した際には、使用されていた敷石が非常に厚くサイズも大きなものばかりです。数百年の耐久性を前提としており、それにふさわしい材料と工法が選ばれていました。

​​一方で、一般的な日本の施工では、費用や工期、材料価格を抑えるために、10年〜25年程度の耐久性を目安とすることが多いのが現状です。どちらが良いという話ではなく、それぞれの文化や価値観、経済性などを背景によって選ばれる考え方の違いだと感じました。また、別の視点によっては良い点でも悪い点でも、日本では時代ごとに作り替える「クラッシュ(古くなったものを壊し)&ビルド(新しく作る)」の考え方が主流に対して、イタリアやスイスでは、“良いものを作り、それを手間とコストをかけて大切に維持する”という価値観が色濃く残っています。アンティークや経年変化を価値として捉える文化が、人々や街全体の景観にも統一感と深みをもたらしているように感じました。​​

もちろん、日本には別の素晴らしい現代文化もあります。施主の意向に応じた自由度の高いデザインや、機能性・新しさを取り入れやすい柔軟さは、現代の日本の建築や造園文化の良さの一つだと思います。けれども、ヨーロッパの古い街並みに身を置いてみると、日本では当たり前とされていた考え方とは異なる価値観に触れることができます。そしてそれは、日本独自の和の美意識や伝統の良さを、改めて見つめ直すきっかけにもなります。“壊して作り直す”だけでなく、“受け継ぎながら残していく”という視点もとても大切だと思いました。

季緑園-四季の庭ーでも、お客様の希望やスタイルに合わせて長く愛着を持って頂ける庭づくりとは何かを考え、千葉県八千代市周辺の庭作りや庭のメンテナンスで、海外での素晴らしい工夫を少しずつ取り入れられるよう努力していきたいと思います。